手描きから、生地になった「あのひと」
- 21 時間前
- 読了時間: 5分
小さな頃から、こんな形の服があったらいいな、とか、こんな柄の服があったら着たいな、とか。
妄想しながら、架空の服を描くことが好きだった。
仕事として服づくりをするようになって、出来ること、出来ないことはなんとなく分かってきた。
それでも昔から変わっていないのは、楽しみながら描く、ということ。
これが服になったら素敵だろうな、と想像しながら描くときの気持ちは、きっと小さな頃から変わっていないと思う。
今回はじめてブランドオリジナルで製作した”anohito”jacquardも、そんなわくわくを胸に描いた。悩みながら、楽しみながら、ときには、自分の描いた「あのひと」の表情に癒されながら。
これは、手描きの図案が実際に生地になるまでの過程を振り返りながら綴った、個人的な記録のお話。

─きっかけ
以前から、いつかオリジナルのジャカード生地を作ってみたいな、とぼんやり思っていた。
ジャカードは、使う糸や色、柄、織り方によって、本当にさまざまな表現ができる。可能性が多いことは魅力でもある一方で、正直なところ、かなり頭を悩ませる存在でもある。
プリント柄であれば、描いた絵を比較的そのまま生地にうつし出せるため、仕上がりの想像がしやすい。けれどジャカードは、完成するまで、どう仕上がるのかが見えにくい。
私にとって、オリジナルのジャカード生地を作ることは、ちょっと得体の知れない領域だった。
そんなある日、いつもお世話になっている尾州産地の生地屋さんから届いた、たくさんのジャカード生地見本。
その中の一枚に、ふと目が留まった。軽やかで、素朴で、華やかすぎず、いい渋さがあった。
この雰囲気なら、ジャカードでも気軽に着やすそうだし、作ってみたい。自然とそう思った。
今までちょっと遠い存在だったオリジナルジャカード生地の製作が、急にリアルに感じられた瞬間だった。
早速問い合わせをし、信頼している担当の方のサポートもあって、初めてのジャカード生地作りはスムーズに進んでいった。
─あのひと
私はパソコンで絵を描くことに慣れていないので、いつも手描きで図案を考えている。
今回も、鉛筆で図案を起こすところから始まった。
モチーフに選んだのは、kéngoで何度も登場してきた、人のかたち。気づけばブランドのアイコン的存在になっていた。
初めてのジャカード生地。モチーフは、やはり、こいつにしようとすぐに決まった。(この時点で、名前はまだない)
今回選んだ織り組織は、二色の糸を使い、表と裏で柄が反転する仕組み。繊細な図案よりも、ある程度、単純な構成のほうが合いそうだと考え、モチーフを「人・草花・鳥」の三つに絞り込んだ。
私事ではあるが、当時、製作が立て込み、缶詰状態だったこともあり、癒しを求めていた。
芝生に寝っ転がりたい。だらだらしたい。許されることなら、ずっと寝ていたい・・・
そんな私たちの願望を、この人たちに預けてみることにした。
ここからは、描いては消して、組み立てて。ひたすら試行錯誤の繰り返し。





ちなみに、生地名の「anohito」は、生地屋さんの担当の方とのメールのやりとりの中で生まれた。
「いつも登場している人型をモチーフにしようと考えているんです。」そんな相談を送ったところ、
「あの人のことですね!私もあの人の柄とかおもしろそう、と思っておりました。」という返事が返ってきたのが、ちょっと面白くて笑ってしまった。
「あのひと」っていう響き、なんだかいいなあ。その日から、生地名には「あのひと」にしよう!と思った。
─生地との初対面
プリント柄でも、染色でも、出来立てほやほやの生地が届き、封をあける瞬間は、いつも決まってドキドキする。今回の “anohito” jacquardも、もちろん例外ではなかった。
生地になったあのひとたちと初めて対面したとき。
驚き、感動、安堵、そして自信。いろいろな感情が一度に押し寄せたことを覚えている。
特に心奪われたのは、手描きで描いたあのひとたちが、一本一本、糸で織られ、生地としてここに存在していること。
春の陽気の中、草花とともにまどろみ、ごろごろする人たち。眠たそうな表情や、むにゃむにゃしている口元の微妙なニュアンスまでもが、原画に忠実に表現されていた。眺めていると、この子たちがなんだか生きているようで、なんとも愛おしい気持ちになった。



─あのひとが、だれかの日常へ
この生地は、重くなりがちな二重組織のジャカード生地を、ドライタッチなトリアセテートを用いることで、軽やかで肌離れの良い素材に織り上げている。職人さんの技術が詰まった、特別な生地であるはずなのに、それをいい意味で意識させすぎない、素朴な仕上がり。一見愛嬌のあるキャラクターも、渋く見えてくる。
そんな生地に仕上がったからこそ、特別な日のためだけでなく、気負わず日常の中でたくさん着てもらいたい。性別や体型を問わず、自由に楽しんでほしい。そんな思いを込めて、今回は、ラフに履けるゴム仕様のルーズパンツを製作した。
日々の中で、ふと何気なく下を向いたとき。思いがけず、あのひとに癒されたり、救われたりすることがあるかもしれない。
普段の装いの中に、あのひとが、そっと溶け込んでいきますように。
今季に限らず、これからも、kéngoで長く愛されるシリーズとなることを願って。
(文:塩貝)

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