カフェオレマーブル色を求めて。〜 後編 〜
- 2月2日
- 読了時間: 5分
更新日:2月17日
こちらのお話は、26年春夏コレクションのtencel wool シリーズで製作した”カフェオレマーブル色”について綴ったものです。
何気ない日の出来事から生まれたこの色が、どのようにして形になっていったのか。きっかけから、先日染色工場で目にしたことまで、前編と後編に分けてお届けしています。
カフェオレマーブル色の誕生
ネットに入れた服たちをざるに入れて、染色場へと向かいます。急な階段を、壁に両手をつきながら恐る恐る降りていく私。その前を、職人の萩原さんは、重い服を抱えたまま早足で降りていきます。
下に降りると、大小さまざまな釜が並んでいました。染めるものの量に応じて、使う釜のサイズが変わるそうです。今回は、200Lの水が入る釜で染めていくとのこと。お風呂一回分くらいかな?
釜に熱湯を入れたら、服を投入する前に、まず下準備です。生地に染料を吸わせるための芒硝(ぼうしょう)と、染料を定着させるためのソーダ灰を入れます。
染料の準備
次は染料を作る工程へ。服たちを一旦その場に残し、移動します。

「染料室」といった場所に案内されると、粉末状の染料が入った箱が、ずらりと並んでいました。これらを、試験時のデータを元に配合し、熱湯で溶いて使うそうです。
私は勝手にカラフルな染料を想像していたのですが、並んでいるのは赤、黄、青。この三色があれば、ほとんどの色を作れてしまうとのことです。
先ほど「試験時のデータを元に」と簡単に書いてしまいましたが、実際には、これがなかなか大変な作業らしいです。試験時と量産時では、一度に染める服の量が大きく変わります。だからといって、単純に染料を増やせばいいわけではありません。
使う釜の大きさに対する服の量、気温や湿度。条件が少し違うだけで、試験時と同じ色にならないことも多いそうです。

これまでよくお願いしてきた「反応染め」では、染色中に色がブレてしまった場合、途中で染料を足して色味を調整することができました。しかし、今回お願いしている「ゆるムラ染め」は、染色の工程上、途中で色味を調整することができないのです。
一度、服を染料に入れてしまったら、色がブレていようが、ムラの出方がイメージと違っていようが、やり直しはききません。いわば、一発勝負です。
だから、染料をつくる工程は、仕上がりの明暗を分ける、とても大切な作業のひとつです。データを頼りにしながらも、最後の微調整は、長年の経験と感覚に委ねられています。
(実はこの色、本番に入る前に一度、試験をしているのです。そのときの色は、イメージしていたものと少しだけ違っていました。残りの量産分は一発勝負で染めるため、染料の微調整はかなり緊張しながら見守っていました。)

染色の瞬間
染料づくりの繊細さを目の当たりにした後は、いよいよ、さきほど作った染料を釜の中に入れていきます。ゆっくりと染料を入れると、お湯の色が、ほんのりブラウンに変わりました。
「多分大丈夫そうですね。」お湯の色と、試験時の服の色を見比べて萩原さんがおっしゃいました。私には、お湯の色を見ただけでは、まだ大丈夫かどうか分かりませんでした。
ついに、服を釜に投入します。40分間ゆっくり浸しながら染めていきます。
──40分後。
この時点では、まだネットに入ったままのため、染め上がりは分かりません。液を排出し、再び水を入れます。そこに、酢酸を加えていきます。これは、染色時にアルカリ性の元で行っていたものを、酢酸によって酸性に戻すことで、色落ちなどの化学反応が起こらないようにするためらしいです。
周りには酸っぱい匂いが漂い、服を扱っているのに料理をしているみたいで、なんだか不思議な気分になりました。今まで知らなかった、たくさんの工程を経て染色が行われていることを改めて実感します。
この後、いよいよ、これまでずっとネットに入っていた服たちとのご対面です。どんなふうに染まっているのだろう。ムラの具合は?色合いはイメージ通り?後戻りのできない一発勝負に、ドキドキします。
緊張の瞬間。



染色の結果
よかった・・・!!!
イメージしていた、コーヒーとミルクが溶け合う瞬間のような一枚です。ほっと一安心すると同時に、職人さんへのリスペクトが止まりません。
今回選んだのは、kéngo定番シアーインナーの、テンセルウール素材です。ほんのり透け感があり、発色の良い素材感に、ゆるムラ染めならではの優しい色の混ざり合いが、美しく馴染んでいました。
染め上がりを確認した後は、服たちを再度、水と酢酸につけます。この時、ゆっくりと釜を回すのですが、服たちも、水の中で安心しながらとっても気持ちよさそうに泳いでいるように見えて、私はなんだかジーンとしながら、ずっとそれを見ていました。

最後に熱湯で洗い、温度を下げて柔軟剤を入れ、脱水して完成です。ざるに再び上げられた服たちは、なんだか誇らしげに見えました。
日常の何気ないきっかけから生まれた、「カフェオレマーブル」色。職人さんによる丁寧さと、長年の経験による的確なお仕事によって、いくつもの工程を経てやっと形になりました。
生地の凹凸の付け方や、ネットへの入れ方。染料の繊細さ。ひとつでも違っていたら、すべてが変わってしまいます。二つと同じものは、存在しない服です。ゆるムラ染めならではの、一点一点異なる表情を、楽しんでもらえたら嬉しいです。
(文:塩貝)
ここまで読んでくださった方、どうもありがとうございました。









