カフェオレマーブル色を求めて。〜 後編 〜
- kéngo
- 2 日前
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こちらのお話は、26年春夏コレクションのtencel wool シリーズで製作した”カフェオレマーブル色”について綴ったものです。
何気ない日の出来事から生まれたこの色が、どのようにして形になっていったのか。
きっかけから、先日染色工場で目にしたことまで、前編と後編に分けてお届けしています。
ネットに入れた服たちをざるに入れて、染色場へと向かう。
急な階段を、壁に両手をつきながら恐る恐る降りていく私。その前を、職人の萩原さんは、重い服を抱えたまま早足で降りていく。
下に降りると、大小さまざまな釜が並んでいた。染めるものの量に応じて、使う釜のサイズが変わるという。今回は、200Lの水が入る釜で染めていくそうだ。お風呂一回分くらいかな?
釜に熱湯を入れたら、服を投入する前に、まず下準備。生地に染料を吸わせるための芒硝(ぼうしょう)と、染料を定着させるためのソーダ灰を入れる。
次は染料を作る工程へ。服たちを一旦その場に残し、移動する。

「染料室」といった場所に案内されると、粉末状の染料が入った箱が、ずらりと並んでいた。これらを、試験時のデータを元に配合し、熱湯で溶いて使うらしい。
私は勝手にカラフルな染料を想像していたのだが、並んでいるのは赤、黄、青。この三色があれば、ほとんどの色を作れてしまうそうだ。
先ほど「試験時のデータを元に」と、簡単に書いてしまったけれど、実際には、これがなかなか大変な作業らしい。試験時と量産時では、一度に染める服の量が大きく変わる。だからといって、単純に染料を増やせばいい、というわけではない。
使う釜の大きさに対する服の量、気温や湿度。条件が少し違うだけで、試験時と同じ色にならないことも多いそうだ。

これまでよくお願いしてきた「反応染め」では、染色中に色がブレてしまっていた場合、途中で染料を足して、色味を調整することができる。
けれど、今回お願いしている「ゆるムラ染め」は、染色の工程上、途中で色味を調整することができない。
一度、服を染料に入れてしまったら、色がブレていようが、ムラの出方がイメージと違っていようが、やり直しはきかない。いわば、一発勝負。
だから、染料をつくる工程は、仕上がりの明暗を分ける、とても大切な作業のひとつ。データを頼りにしながらも、最後の微調整は、長年の経験と感覚に委ねられている。
(実はこの色、本番に入る前に一度、試験をしている。そのときの色は、イメージしていたものと少しだけ違っていたのだ。残りの量産分は一発勝負で染めるため、染料の微調整はかなり緊張しながら見守っていた。)

染料づくりの繊細さを目の当たりにした後は、いよいよ、さきほど作った染料を釜の中に入れていく。ゆっくりと染料を入れると、お湯の色が、ほんのりブラウンに変わった。
「多分大丈夫そうですね。」
お湯の色と、試験時の服の色を見比べて萩原さんがおっしゃった。
私には、お湯の色を見ただけでは、まだ大丈夫かどうか分からなかった。
ついに、服を釜に投入。40分間ゆっくり浸しながら染めていく。
──40分後。
この時点では、まだネットに入ったままのため、染め上がりは分からない。
液を排出し、再び水を入れる。そこに、酢酸を加えていく。これは、染色時にアルカリ性の元で行っていたものを、酢酸によって酸性に戻すことで、色落ちなどの化学反応が起こらないようにするためらしい。
周りには酸っぱい匂いが漂い、服を扱っているのに料理をしているみたいで、なんだか不思議な気分になった。今まで知らなかった、たくさんの工程を経て染色が行われていることを改めて実感する。
この後、いよいよ、これまでずっとネットに入っていた服たちとのご対面。
どんなふうに染まっているのだろう。ムラの具合は?色合いはイメージ通り?
後戻りのできない一発勝負に、ドキドキする。
緊張の瞬間。



よかった・・・!!!
イメージしていた、コーヒーとミルクが溶け合う瞬間のような一枚だ。
ほっと一安心すると同時に、職人さんへのリスペクトが止まらない。
今回選んだのは、kéngo定番シアーインナーの、テンセルウール素材。
ほんのり透け感があり、発色の良い素材感に、ゆるムラ染めならではの優しい色の混ざり合いが、美しく馴染んでいた。
染め上がりを確認した後は、服たちを再度、水と酢酸につける。この時、ゆっくりと釜を回すのだが、服たちも、水の中で安心しながらとっても気持ちよさそうに泳いでいるように見えて、私はなんだかジーンとしながら、ずっとそれを見ていた。

最後に熱湯で洗い、温度を下げて柔軟剤を入れ、脱水して完成。ざるに再び上げられた服たちは、なんだか誇らしげに見えた。
日常の何気ないきっかけから生まれた、「カフェオレマーブル」色。職人さんによる丁寧さと、長年の経験による的確なお仕事によって、いくつもの工程を経てやっと形に。
生地の凹凸の付け方や、ネットへの入れ方。染料の繊細さ。ひとつでも違っていたら、すべてが変わってしまう。二つと同じものは、存在しない服。
ゆるムラ染めならではの、一点一点異なる表情を、楽しんでもらえたら嬉しい。
(文:塩貝)
ここまで読んでくださった方、どうもありがとうございました。









